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練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、
房一の魚籠びくをのぞいて、盛子はびつくりしたやうに叫んだ。
夜になるとその谷間は真黒な闇に呑まれてしまう。闇の底をごうごうと溪たにが流れている。私の毎夜下りてゆく浴場はその溪ぎわにあった。
「何しろ、わや苦茶だ」
房一は前の方を向いたまゝだつた。
と、一向にそんなことを知らない房一が云つた。
「半之丞の子は?」
「へえ、いえ」
房一はきつぱり云つた。男は、これは話が判る、といふやうな顔をした。それに押つかぶせるやうに、
と、徳次は叮寧にならうとして一種奇妙な言葉づかひになりながら、
さつきから、日のあたる縁側近くに縫物を持ち出していた盛子は、あんまりびつくりしたのと身体が重いのとで、立上ることを忘れてかう感嘆詞を連発しながら、あの語尾の跳ね上りを少し響かせながら、庭先に現れた人影に向つて目を瞠みはつていた。
「さうぢや」
「さうだ」